独自フォルム誕生の裏側にあった“ピンクの耳”

――独特の形状ですが、どうしてこの形を採用したのですか?

太田氏:最初にも述べましたが、今までのインナーイヤーヘッドホンは決して万人の耳にフィットするものではありませんでした。この形状は、それを解消するために誕生したものです。イヤーピースを外耳道の角度、サイズに調整することで、今まで使っていたステレオヘッドホンと同じような感覚で装着できるようにしました。もちろん、カバンからさっと取り出して片手で簡単に装着できます。

――イヤーピースの角度やサイズはどうやって決めたのですか?

太田氏:我々の耳型のデータによるものです。これは社内の人間の耳型です(下写真)。歯医者で歯形を採るのと同じように、特殊なシリコンを使って採取しています。私は“耳型職人”の四代目になります。

ピンクの耳型。男性、女性、外国人など多くのサンプルを採取しているという。変わった耳の形の人を見ると、耳型採取をお願いしていたのだとか

――耳型職人とは?

太田氏:イヤホン開発に必要なサンプルを採取する人のことです。ソニーのイヤホン設計グループで代々受け継がれている、いわば一子相伝の技術です(笑)。耳型採取には熟練の技術が必要で、意外と設計グループ内でも人気の役目なんですよ。女性にも協力してもらいますからね。でも危険な点もあります。 

 普通は耳に綿を詰めてから型を取るのですが、私の先代がもっと耳の深い所までの型をとりたいということで、綿なしで型を採ったのです。その結果、耳の奥のシリコンが取れなくなり、そのまま病院送りになりました。このときの耳型は、もちろん私のものです(笑)。

太田氏:シリコンの耳型のいい点は、切断できるところです。実際に人の耳を切断するわけにはいきませんから。これにより外耳道の角度を研究し、最適な角度を出しました。また、角度だけでなくイヤーピースの位置(長さ)やサイズなども最適化しました。

切断した耳型を使って、イヤーピースの角度やサイズを調整。右は9mmのドライバーを採用した「MDR-E51SP」の装着した場合。EX90SLはステレオイヤホンと同じ感覚で装着できるようになっている

イヤーピースを外耳道の角度に合わせることで、しっかりと装着できる。激しい動きにも外れにくいというメリットもあるという

――手作業による音質調整とはどのようなものなのですか?

太田氏:私は“QUALIA”「MDR-EXQ1」(EXQ1)の設計も担当しました。EXQ1は元々、QUALIAのポータブルMDプレーヤーに付属するものでしたが、QUALIA認定委員会の出井伸之前CEOに、これを単体で発売しなさいと言われて製品化したものでした。EXQ1は、一つひとつ手作業で音質調整を行っていましたし、きょう体には真ちゅうを使うなど、QUALIAらしい仕様と音になりました。ただし、手間のかかる分、価格は高くなりました。それでも手作業の音質調整により、音には高い評価をもらえました。これをEX90SLでも行っているのです。

 ヘッドホンは左右のバランスはもとより、各パーツの組み込み具合で音にばらつきが生じます。これを一つひとつ手作業で調整していくのです。実際に耳で聴くのではありませんが、専用の機材を利用しながら調整します。これは、工業的な量産システムでは、非常に無理がかかります。製造現場からは厳しい声をもらいました。

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