アップルコンピュータの「iPod」やソニーの「ウォークマン」をはじめとする携帯音楽プレーヤーの普及でイヤホン&ヘッドホンが注目を集めている。特に密閉型インナーイヤーヘッドホン(カナル型)の人気が高い。カナル型は海外メーカー製が中心だったが、最近では日本メーカー製も徐々に増えてきている。

 そこにソニーから1万2390円の密閉型インナーイヤーヘッドホン「MDR-EX90SL」(以下EX90SL)が登場した。独特の形状と、“EXモ二ター”というキャッチフレーズの通り、スタジオモニター用(プロフェッショナル用途)でも使える高音質を実現したのが特徴のモデルだ。また、高音質を実現するため、通常の2〜3倍も多くの音響調整部品を採用したり、一つひとつ手作業による音質調整など、こだわりが満載のイヤホンになっている。

 今回はEX90SLのこだわりや、ソニーのイヤホン開発の裏側を探るべくインタビューを行った。話を伺ったのは、EX90SLの設計を担当した太田貴志氏(オーディオ事業本部 パーソナルオーディオ事業部 PA商品企画部 企画3課)。同氏はQUALIAブランドの密閉型インナーイヤーヘッドホン「MDR-EXQ1」の設計も手がけたソニーのイヤホン設計のキーマンだ。

ソニー オーディオ事業本部 パーソナルオーディオ事業部 PA商品企画部 企画3課の太田貴志氏。後述する“耳型職人の四代目”で、EX90SLの設計を担当したソニーのヘッドホン設計のキーマン


密閉型インナーイヤーヘッドホンでモニタークラスの高音質を

――MDR-EX90SLを開発した理由は?

太田氏:イヤホンの需要が高く、業界自体も大きくなっています。その中で安いものだけでなく高価なものも伸びてきています。ソニーとしてもこの分野を見逃せませんので、今回のEX90SLを企画しました。

 ご存じだと思いますが、イヤホンには密閉型と開放型の2つのタイプがあります。密閉型はベース、低音がクリアに再現できる上、大容量の入力に耐えられるという特性があります。また、モニター用、つまり業務(プロ)用としても使われており、音楽というよりも楽器一つひとつ、ボーカルの声などの音を聴くタイプです。一方の開放型はつけ心地がよく、音楽を楽しむタイプです。リラックスして音楽が楽しめるのが特性です。

 ソニーでは99年に、密閉型のインナーイヤーヘッドホンの「EX70」シリーズをリリースしました。EXシリーズは密閉型インナーイヤーヘッドホンであることを示します。密閉型インナーイヤータイプは、万人にフィットするタイプがありませんでした。イヤーチップにS、M、Lのサイズを付属させることで、ある程度は快適に使ってもらえるとは思いますが、既存の密閉型インナーイヤーヘッドホンでは万人にフィットすることはないと思います。これをなんとか万人にフィットできる製品を作りたいということで、EX90SLを開発しました。

最終的な音の決定も太田氏が行っているという
――MDR-EX90SLのコンセプトは?

太田氏:EX90SLのキャッチフレーズは“EXモニター”です。EXは先に述べたように密閉型インナーイヤーヘッドホンであることを意味しています。モニターとは音楽の製作現場であるスタジオでも使える高音質を実現しているということです。つまり、携帯のしやすさ、装着感を重視した密閉型インナーイヤーヘッドホンで、モニター用でも使える高音質を再現する、というのがコンセプトです。

 実際にソニー・ミュージックエンタテインメントと共同開発したスタジオモニター「MDR-ECD900ST」と同様に、ソニー・ミュージックのスタジオエンジニアの方々からの意見を取り入れて最終的な音を決めていく予定になっています。これは他社にはない、ソニー独自の強みだと思います。

 ただ、モニター用になりすぎないように配慮しています。モニター用は音楽というよりも音を聴くためのものです。それだけではアウトドアで使う場合につまらない音になってしまうので、モニター用に利用できる高音質はそのままに、音楽を楽しめるような音作りをしています。

――きょう体にアルミニウムを採用した理由は?

太田氏:チタンや真ちゅうなどの金属にはキャラクターがあります。設計段階ではいろいろな素材を試しました。アルミニウムを採用した理由は、質感、音質、装着感のバランスを重視した結果です。アウトドアで使うものですから、見た目にもこだわっています。

――開発に苦労したエピソードがあったら教えてください。

太田氏:音響調整部品の数です。開発当初は、音を調整する部品を3個使っていました。設計していく段階で4つ使ったら、音が断然良くなったんです。一緒に設計をやっている仲間にも音を聴いてもらって、納得してもらいました。最終的には6つの部品を組み込みました。インナーイヤーヘッドホンでは同社の場合、1個から多くても3個が普通なので、贅沢に詰め込んだと言えます。やれることはやったという感じでしょうか。

内部構造の分解イメージ。太田氏による手作りのものだ。音響調整品としてはリアガスケット、フロントガスケット、吸音材、レジスター、イコライザー、スクリーンの6種類を組み込んでいる。接合も超音波溶着で、前後きょう体を完全一体化させているという

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