ネット経由で音楽CDの情報を提供するCDDBサービス。増大するデータベースと共に、サービスシーンも広がっている


 あれはWindows 95のおまけ付きパッケージである「Windows 95 Plus」に入っていたCD再生ソフトだったと記憶している。ネット接続中に、パソコンで音楽CDを聴こうとしてドライブにCDを入れたら、「トラック1」などと表示される部分に突然曲目が表示されたのには驚いた。もちろん自分で曲目をタイプ打ちした覚えはない。自動で曲目が現れる、その便利さに思わずうなったものだ。僕と同様の感想を持つ人は多いのではないだろうか。

 今では、ネットを介したCD情報の取得機能は、パソコン用の音楽再生ソフトにほぼまちがいなく搭載されている。その多くは「CDDB」という仕組みを利用している。

 CDDBは1995年、純粋なボランティア運営によるCD情報蓄積サービスとしてスタートした。有志の利用者がCDの楽曲情報を入力してCDDBサーバーにアップロード、その情報をネット経由で広くユーザーに提供する仕組みだ。この仕組みを知ったときは、そのあまりにインターネット的な精神の上に構築された方法に、なるほどと大きくうなずいたものだ。

●CDをどうやって特定する?

 さて、気になるのは、CDDBサーバーはどうやってCDを特定するのかという点。実は、CDには内径の部分にリードインと呼ばれる情報書き込み領域が設けられている。ここには、CDの曲数や時間などの目次情報(TOC:Table of Contents、トック)が書き込まれている。CDプレーヤーにCDを挿入すると、曲数と時間が表示されるのは、TOCを読み込んでいるからだ。CDDBも、データベース上でこのTOC情報と楽曲情報を関連づけることで、各CDタイトルを特定して楽曲情報を送信する。


CDDBを使った楽曲情報のダウンロードの仕組み。楽曲数、時間などのTOC情報をCDDBサーバーに送信、それとマッチするCDの情報をデータベースからピックアップする

 TOCには時間の情報が100分の1秒単位まで記録されている。そのため、100分の1秒まで一致するCDというのはそうめったにあるものではない。タイトル数が膨大になってもCDを区別できる理由はここにある。

 ただ、曲目数の少ないマキシシングルや、自分で1~2曲だけ焼き込んだ音楽CDをドライブに挿入すると、稀に複数のCDタイトルが表示されてどれかを選べと即されたり、まったく身に覚えのないタイトルが表示されることがある。これなどは100分の1秒単位まで偶然に一致した結果だ。

 CDDBにないCD情報は、ユーザーが入力、CDDBサーバーに登録できる。この仕組みによって情報は日々増殖、現在では210万タイトルを超える情報が登録されているという。

 余談だが、先日、米国のロックバンドTOTOの「LIVE IN AMSTERDAM」というCDを、iTunesを使ってリッピングしようとした際、このCDタイトルの情報が表示されなかった。「おっ、これは登録者になれるチャンス!」とばかりに、iTunesの「CDトラック名を送信」コマンドを使ってCDDBに登録しておいた。TOTOの「LIVE IN AMSTERDAM」は、僕が登録したものですヨロシク。たったこれだけのことだが、ちょっと自慢できるというか、利用者の“一番乗り感”をくすぐるところが、CDDBの上手なところか。

●CDDBサービスの商用化

 純粋なボランティアとしてスタートしたCDDBサービスだが、現在では米Gracenote社によって運営、商用化されている。ちなみに、商用化されたCDDBは、日本語の情報などにも対応した「CDDB2」としてバージョンアップ、従来型のCDDBとは区別されている。

 CDDBが商用化されたといっても、我々のような在野の利用者からお金を取るというものではない。ご存じのように、ネットに接続できる環境があり、CDDBに対応する音楽再生ソフトであれば、誰でも無料で楽曲情報を取得できる。また、CDのタイトル・楽曲情報は、商用化された以後も、ボランティア時代と同様、未だに一般利用者による登録によって日々増殖している。

 主な収入は、CDDBを利用するソフトからのライセンス料だ。CDDBへアクセスして楽曲情報をダウンロードするiTunesなどの音楽ソフトは、初期費用に加えて、一本あたりいくらという形でGracenote社にライセンス料を支払っている。

 ライセンス料は、ソフトの配布形態や出荷本数、CDDBへのアクセス数によってまちまち。一本あたり80円前後がおよその目安のようだ。ソフト会社としては馬鹿にできない金額だが、ネットによるCD情報のダウンロード機能が、ほとんどあたりまえのように使われている現状を考えると、この機能を無視できないだろう。

 なお、現在Windowsで標準的に使われている音楽再生ソフト「Windows Media Player」では、CDDBを利用していない。マイクロソフトのサーバーから情報を取得する仕組みなのだが、その情報量はCDDBには負けている。一説には、CDDBに支払うライセンス料を節約するためとも言われているが、真相はどうなのだろうか。

●曲の波形データを元に楽曲を特定するサービスも

 米Gracenote社は、日本での営業活動にも本腰を入れ始めている。今年の5月には日本法人「グレースノート株式会社」を設立した。日本法人の主なターゲットは、パソコン以外のAV機器、特に、ハードディスク搭載のカーナビへの視線が熱い。

 最近のカーナビは、パソコンと同様に、カーナビでCDを聴きながら内蔵ハードディスクに楽曲を保存できる。その際にCDのタイトルが入力されないのはやはり不便。そこで、内蔵HDDにCDDBのデータを搭載する形で、CDタイトルや楽曲名の表示を実現している。データそのものをHDDに保存するため、ソフトよりもライセンス料は高く、「1台あたり、500円から1000円」(グレースノート)が相場のようだ。

 ただ、それだけでは、カーナビ購入後に発売された新譜に対応できない。しかし、最近のカーナビは携帯電話を接続してネットにアクセスできたり、自ら通信機能を有しているものもある。購入後の差分(新譜)情報は、そういった方法で入手する仕組みになっている。


ソニーのバイオにバンドルされるレコーディング・マスタリングソフト「SonicStage Mastering Studio」。高機能なエフェクト機能で有名だが、波形によって楽曲情報を取得できる「MoodLogic」の技術も搭載している

 CDに限らず、楽曲の情報提供サービスは、今後有望な市場と見る向きもあるようで、新しい技術も登場している。CDのTOC情報を読み取るのではなく、曲の波形解析データを元に、1曲単位での楽曲情報を提供するサービスも現れた。米MoodLogic社の「MoodLogic」という技術がそれだ。これは、ソニーのバイオに付属するレコーディングソフト「SonicStage Mastering Studio Ver.1.0」にその仕組みが既に採用されている。波形そのものによって楽曲を特定するので、アナログ音源から録音した場合でも楽曲情報が手にはいるのだ。

 今後は、カーナビのみならず、ミニコンポのようなAV機器までもがネットに接続する時代がやってくる。そうなると、これらネットからの楽曲情報ダウンロードサービスは、ますますもって重要になってくるのだろう。その中でも、ユーザーの力を利用して、商売に結びつけるGracenote社のやり方は、インターネットの特質にマッチした、うまい方法と言える。


筆者紹介山崎潤一郎yamasaki@geomet.gr.jp
1957年生まれ 蟹座のO型。本職は音楽制作会社のディレクターだが、インターネットに興味を持ち、ひょんなことからプロバイダーを評価する書籍を執筆。以来ネット系のライター稼業にも精をだす毎日が続いている。週刊アスキー、インターネットマガジン等に執筆。近著に『株の買い方・売り方が面白いほどわかる本』『稼げるIT資格親切ガイド(共著)』(中経出版刊)がある。 西日本新聞 「デジタルQ」連載「また買ってしまった」、Yahoo! Internet Guide連載「高速インターネット入門」も好評連載中。