Windows版登場で、ますます加速するアップルの音楽配信サービス「iTunes Music Store」。仮に日本でスタートすると、どんな市場規模になるだろう?


 かねてより噂されていた、米Apple Computerの音楽管理ソフト「iTunes」のWindows版がリリースされた。これによって、米国居住者に限るが、Windowsからでも同社が運営する音楽配信サービス「iTunes Music Store」が利用可能になった。

 アップルによると、「iTunes Music Store」では、4月のサービス開始以来、1300万曲が販売され、米国のダウンロード販売のシェアの約7割を確保したそうだ。今後は、Windowsユーザーにもその販路が拡大されるとあって、これからの6カ月で、これまでの6倍以上にあたる約8700万曲のダウンロードをもくろんでいる。実際、米国では10月17日からWindows版iTunesの配布が開始されたが、3日半でWindows版ユーザーからの楽曲ダウンロードが100万件を超えたという。出だしは順調のようだ。


ついにWindows版が登場したアップルの音楽管理ソフト「iTunes」。Windowsからも、同社の音楽配信サービス「iTunes Music Store」の利用が可能になった(米国居住者に限る)。ソフトは同社のWebページから無料ダウンロードできる。10月17日から英語版の配布が開始されたが、10月22日現在、日本語版の配布は始まっていない

 同社の目標通りに事が進むと、創業1年目(2004年4月)でiTunes Music Storeは、のべ1億曲を売る計算になる。同サイトでは、1曲あたり99セントで楽曲が販売されているので、総額にすると9900万ドル、日本円にして年間100億円以上の売り上げとなる。これはかなりの規模だ。

 気になるのはiTunes Music Storeの米国以外での展開。以前掲載した「音楽業界を革新するか?アップルの音楽配信サイト」で、音楽業界が各国単位のテリトリー型ビジネスで成り立っている事実を紹介、日本から米国の楽曲を購入できない理由や各国ごとのiTunes Music Storeの立ち上げの難しさを説明した。

 実際、日本のアップルコンピュータで行われたWindows版iTunesの説明会でも、世界展開について、「システム開発は進めているが、権利関係の問題など、ビジネスや制度の部分で解決すべきことが多い」(アップルコンピュータ マーケティング本部 本部長 大宮哲夫氏)という説明があった。

 米国版iTunes Music Storeで、お気に入りのアーティストを日々物色している僕としては残念だが、やはりことはそう簡単には進まない。

●日本の市場規模に換算すると年間40億の売上見込み

 では、1音楽ファンの立場を離れて、日本のレコード業界の人が、iTunes Music Storeの現況をどうみるのか想像してみた(というか僕も一応は音楽業界の末席にいる一人なんですけどね…)。

 日本レコード協会(http://www.riaj.or.jp/)のホームページによると、2002年の米国のオーディオレコード総売上高は、約123億ドル(シングル、LP、テープ、CD全て含む。当時のレートで日本円に換算すると1兆5456億円)になる。一方、日本国内の2002年のオーディオレコードの総売上高は約46億ドル(5760億円)と、米国の4割弱だ。もし、仮に、日本版iTunes Music Storが開始されたとして、米国版の約4割を売り上げたと仮定すると、年間の予想売上高は約40億円になる。

 この数字をどう見るべきだろうか。もし、僕が日本レコード業界のトップの立場にいる人間だとすれば、「CDの売り上げ不振が続く昨今、十分検討に値するサービス」と思うだろう。ただ、リスクをどう捉えるかが問題だ。

 リスクとは、楽曲データの不正コピーのこと。レコード業界には、パソコン向けの音楽ダウンロードに関して、ある種アレルギーにも似た拒否感情があることは事実。ましてやアップルが採用したiTunesの著作権保護機能「Fairplay」は、ほかの音楽配信サービスよりゆるい仕組みになっている。「大丈夫なのか」という疑念もおきよう。

 さらにレコード流通の問題もある。日本のレコード流通は、メーカーが小売価格を決定、どの店舗でも同じ価格で販売される「再販価格維持制度」で、護送船団方式で保護されてきた。インターネット時代になった今も、これまで営々として築き上げたこのビジネスモデルで、収入を得て生計を立てている人はたくさんいる。

 それを考えると、確かに40億円は魅力だが、約5000億円の市場全体から見れば、全体の0.8%程度、“たった40億円”とも思える。レコード会社としては、iTunes Music Storeという音楽配信を実施してまで、業界に関わる多くの人達を裏切り、敵に回すようなことはしたくないだろう。

●ダウンロード市場としての「着うた」の可能性

 実は日本には、iTunes Music Storeに勝る楽曲のダウンロード市場がある。携帯電話のauがサービス提供する「着うた」だ。30秒程度の長さであるが、アーティストのオリジナル音源をそのまま着信メロディに使えるこのサービスは、9月の月間ダウンロード数が「720万曲(無料サービス分も含む)」(KDDI広報部)に達し、昨年12月開始からの総ダウンロード数が3000万を超えるなど、急速に市場を拡大している。

 「着うた」は1曲あたり52円〜315円で販売されている。上記のダウンロード数には、キャンペーン期間中の無料ダウンロードも含むため、この市場全体の正確な規模は分からない。しかし「有料ダウンロード数は、(720万ダウンロードの)過半数を超えていると考えて差し支えない」(KDDI広報部)とのことなので、仮に6割程度が有料ダウンロード、1曲の平均単価を100円に設定すると、月間の売り上げは約4億3000万円になる。1年で50億円強だ。少なめに見積もっても、これだけの市場規模がある。

 実際、メジャー系レコード各社は、レコード会社直営の「着うた」ダウンロードサイトの運営にせっせと励んでいる。これまでの着メロでは、楽曲のMIDIデータを扱っていたため、レコード会社は基本的に蚊帳の外だった。しかし、実際の音源を使う「着うた」であれば、著作隣接権を持つレコード会社が利益を得られる。着うたの場合、ダウンロードしても端末から外へ持ち出せないため、不正コピーの心配もない。日本のレコード会社からすれば、不正コピーのリスクのあるパソコン向け音楽配信に力を入れるより、着うたに注力するのは自然の成り行きだろう。また、既存のレコード流通には、「着うたは、着メロの発展系であり音楽配信ではない」という言い訳も成り立つ。レコード会社が着うたに熱心なのは、こういう理由があるからだ。

 着うたと同程度の市場規模を持つと予想されるiTunes Music Storeを、日本のレコード業界はこれからも無視し続けるのだろうか。あまりにももったいない話ではないか。確かに、リスクもあろう、抵抗勢力の反対もあろう。だが、CDの売り上げ不振が続く中、レコード業界の将来を本気で考えるなら、何にでもトライしてみるべきではないかと思うのだ。


筆者紹介山崎潤一郎yamasaki@geomet.gr.jp
1957年生まれ 蟹座のO型。本職は音楽制作会社のディレクターだが、インターネットに興味を持ち、ひょんなことからプロバイダーを評価する書籍を執筆。以来ネット系のライター稼業にも精をだす毎日が続いている。週刊アスキー、インターネットマガジン等に執筆。近著に『株の買い方・売り方が面白いほどわかる本』『稼げるIT資格親切ガイド(共著)』(中経出版刊)がある。 西日本新聞 「デジタルQ」連載「また買ってしまった」、Yahoo! Internet Guide連載「高速インターネット入門」も好評連載中。