ADSLの先駆けであった東京めたりっく通信が、6月30日にひっそりとサービスを終了した。


 自分の意志でプロバイダーを乗り換えるのであれば、諸々の変更作業やそれに伴うコストも我慢できよう。だが、事業者側の都合でそれらの作業を強いられると、非常に苦痛でもある。

 大きくは報道されなかったが、去る6月30日、ADSL事業者の先駆けであった東京めたりっく通信がひっそりとサービスを停止した。同社は、約2年半前、資金繰りの悪化から経営危機に陥り、Yahoo! BBを発表した直後のソフトバンク傘下に入り、細々とサービスを続けていた。


かつての東京めたりっく通信のホームページ(http://www.metallic.co.jp/)に、ひっそりと掲げられたサービス終了のお知らせ。経営危機後、ソフトバンク傘下に入り、「Yahoo! BBめたりっくサービス」としてサービスを続けていたが、6月末にそれも終了した

 ソフトバンクとしては、東京めたりっく通信を救済することで、ADSL業界の先駆者が持つ優れた技術やノウハウを吸収し、対外的なイメージ向上につながると判断したのだろう。その後、約2年にわたり、ソフトバンクは約2万8000加入にのぼる東京めたりっく通信のユーザーの面倒を見続けたわけだ。で、7月1日以降は、東京めたりっくのユーザーをYahoo! BBが引き取る形で現在に至っている。

 同社の危機や、それと時を同じくして勃発した、米国のADSL事業者の経営危機の様子は「ADSLに暗雲!?--東京めたりっく通信の経営危機」でも取り上げた。米国では、ユーザーへの事前通告なしに、突然サービスが停止する例もあり、大混乱が生じたようだが、東京めたりっく通信の事例では、そういった最悪の事態は免れることができた。

●実は、東京めたりっく通信の利用者だった

 話を冒頭の乗り換え作業の件に戻そう。実は、僕が所属するある芸能系のNPO団体の事務所が、東京めたりっく通信の利用者だった。同社がサービスを開始した直後、たまたま該当電話局管内に事務所があったため、僕の強い希望もありこれ幸いにと、始まったばかりのADSLを導入したのだ。そんな背景もあり、事務所のネット環境に関しては、ちょっとした責務を感じており、今回の東京めたりっく通信からYahoo! BBへの環境移行に関しては、諸々の作業の段取りをつけたり、実作業を行ったりした。冒頭のグチは、そういった過程での正直な感想だ。

 ただ、今回のサービス移行に関して、Yahoo! BBには悪い感情は抱かなかった。かなり前からサービスをYahoo! BBに移行する旨の通知が送付されて来ており、ユーザー側としては事前に諸々の準備をする猶予はあった。それに、料金が下がって速度が向上するのも、ちょっぴり期待する部分はあった(東京めたりっく通信は下り1.6Mbpsだった)。

 でもやっぱり、実際に移行作業を行なう段になると、手間と時間がかかったことは事実。事務所で利用していたために、個人の場合と違って影響が多岐にわたったこともあろう。ちなみに、以下は、その際に行った作業のリスト。結構な時間とコストがかかっているのがご理解いただけると思う。

  • メールアドレスやホームページアドレスの変更通知
  • メールの署名変更
  • 名刺、封筒、各種書類等印刷物の刷り直し
  • ホームページの引っ越しやカウンター、フォームCGIの変更
  • 検索エンジンの登録変更
  • 各方面へのリンク先変更依頼
  • パソコンの設定変更

 今回の移行作業では、「もし東京めたりっく通信が救済されなかったら突然サービスが停止していたかも」という気持ちがあるので、「それよりはマシ」という感覚もある。その半面、事業者側の経営失敗という理由で、ユーザーがこのような損害を被ることのやるせなさも大いに感じた。

●結局、安全なプロバイダーを選ぶべきなのか

 このところは落ち着いているが、一時は、プロバイダー業界の買収報道が盛んに報じられた時期もあった。また、実際に、廃業や運営母体の都合で事業統合されたプロバイダーもいくつかある。そういった事が起きるたびに思うのだが、ネットが生活基盤として日々の暮らしに深く密着すればするほど、サービス移行に伴う影響は大きくなる。

 有事の際に、メールやホームページのアドレスを変更する程度ならまだ被害は少なくて済むが、例えば、将来、IP電話が一般化した時に、プロバイダーの都合でIP電話番号が変わってしまうことになると大変な混乱が起きるだろう。また、テレビ電話やその他、P2P(エンド・トゥー・エンド)系のコミュニケーション型アプリケーションが普及した際も、プロバイダー側の都合で、自分を特定する番号なりアドレスが変わるという事態は、ユーザーとしてやはり受け入れがたい。

 そのあたりの不安を払拭するには、やはり盤石な経営母体や経営基盤を持ったプロバイダーや通信事業者を選ぶべきなのか。そんな心配をしながら、この考えを深めていくと、結局は、環境変化が起きる確立が低そうな、つまり倒産や事業統合がおきにくそうな巨大通信事業者の方に目が行ってしまう。しかし、それもなんだか寂しいものを感じる。

 何が起きるかわからない不確実性の時代にあって、プロバイダーや通信事業者を選ぶのは本当に難しいものだと、東京めたりっく通信のサービス停止で実感した次第。


筆者紹介山崎潤一郎yamasaki@geomet.gr.jp
1957年生まれ 蟹座のO型。本職は音楽制作会社のディレクターだが、インターネットに興味を持ち、ひょんなことからプロバイダーを評価する書籍を執筆。以来ネット系のライター稼業にも精をだす毎日が続いている。週刊アスキー、インターネットマガジン等に執筆。近著に『株の買い方・売り方が面白いほどわかる本』『稼げるIT資格親切ガイド(共著)』(中経出版刊)がある。 西日本新聞 「デジタルQ」連載「また買ってしまった」、Yahoo! Internet Guide連載「高速インターネット入門」も好評連載中。